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 F子ちゃんの場合 (あたらしいふれあい  98年9月号より)   

  F子ちゃんは9カ月の時に「愛の手」に掲載されました。何組かの申込みを受けたものの、F子ちゃんにはもっと良い出会いがあるかもしれないという結論で、引き続いて里親を探すことにしました。そして、今、F子ちゃんを育てている里親との出会いがあったのです。里親がF子ちゃんと初めて面会をした時、F子ちゃんは2才前になっていました。
 F子ちゃんは、たくさんの大人の中で緊張しながらも、園庭にある滑り台を何回も何回も滑り、みんなに褒めてもらって満面の笑み。里母のことも気にはなっていたし、一緒に遊ぶことはできるものの、里母が抱っこをしようとすると、身体を固くしていました。里母はぽっちゃり顔のF子ちゃんを見て、「かわいい、かわいい」と嬉しそうな顔をしていました。約1カ月の実習のあとの引き取り当日、里父が汗だくになりながら一生懸命F子ちゃんの着替えをさせていたのを思い出します。
 引き取って1週間ほどはごはんもたべず、夜も寝ず、トイレも抱っこで、お風呂は泣く・・・という状態で、「正直、返そうかと思ったこともあります」と委託後の家庭訪問での里母。でも、1カ月たって、F子ちゃんの生活のリズムができてきて、周りの人からの「F子ちゃん、顔つきが変わってきた。かわいくなってきたね」という声にも助けられて毎日を過ごしていたようです。
 でも、里母の悩みは食事でした。すごい偏食で、最初はイチゴ。畑でできていたイチゴを食べたのがきっかけだったのか、食べるのはイチゴと牛乳だけ。ある日、「イチゴばっかり食べていて大きくなれるやろうか」と里母からの心配そうな電話。「牛乳も飲んでるのやったら大丈夫よ、イチゴの美味しい季節でよかったね。きっと終わるから」という私の言葉に「体重は増えているからいいですよね」と納得する里母。イチゴのあとはハウスミカン。その後はぶどう。1時間かけてぶどうの皮を剥き食べる。食べるのは果物ばかり・・・そんな日がしばらく続きました。
 引き取って3カ月の頃、里母から「しんどい」と電話がありました。1週間ほどすごいわがままで、なにをやっても泣く。抱っこをしてと言うので抱っこをすれば「嫌!」と突き放される。かといって抱っこはしてほしい。水遊びが大好きで、はみがきの時に水遊びをしたがる。里母からすれば、洗面所を水浸しにされるのは絶対に嫌だという思いもあって、まさにF子ちゃんとの根気比べ。それに続いて、F子ちゃんが遊び食べをしているのに里父が「座って食べろ!」と思わず怒鳴ってしまい、その声に驚いたF子ちゃんが里父を怖がって近づかなくなったと。里父はF子ちゃんを引き取ってから、自分で朝食の支度をして出勤する。疲れて家に帰ってきたら家中散らかっている。そんな中、F子ちゃんがなかなか自分になつかない。里母はF子ちゃんの甘えや行動に「この子も私たちに馴染もうと一生懸命頑張っている」と思えたことで、「あきらめ」られるようになったものの、接する時間の短い里父はどうしてもF子ちゃんのペースに慣れることができなかったのでしょう。里母からすれば仕事が終わればすぐに帰ってきて子育てをバトンタッチしてほしいのに、F子ちゃんになついてもらえない里父は帰りが遅くなってしまう日もあり、喧嘩をしたことも。でも、それをきっかけに里父も仕事から早く帰ってきて、子育てに協力してくれるようになったそうです。
 そんな中、里母から「シチュー作ったら喜んで食べてくれたんです!やっと、ご飯を食べてくれたんです」という喜びの電話があったのは、引き取ってから5カ月目。その頃からF子ちゃんも「お父さん大好きっ子」になり、里父もF子ちゃんをかわいくて仕方がない「メロメロお父さん」なりました。
 F子ちゃんは乳児院で生活していた頃から敏感な子どもで、人見知りの時は、目が合うだけでも泣くありさま。そんなこともあるのか、家の中では元気一杯なのに、外に出るとおとなしく、里母から離れられませんでした。協会から同じくらいの子どもが委託された家庭を紹介し、時々会ったりするようになりましたが、F子ちゃんはなかなかその輪に入ることもできません。この子の性格もあるし、個人差だからと分かってはいても心配だったようです。でもF子ちゃんも、徐々に里母から離れて、他の子どもたちと一緒に遊べるようになってきました。
 F子ちゃんは、昨年末、無事入籍もすみ、今年保育所に入りました。送ってくれたのは、入所式で泣きべそかきながらピースをしている写真。1カ月くらいは泣かれるかなあと覚悟をしていた里母の予想に反して、10日ほどで機嫌よく行くようになったとか。「何だか拍子抜けして、寂しくて・・・」「子どもって知らず知らずの間に成長しているものですね」という言葉に頷く私でした。
 F子ちゃんを里親の所にお願いしたとき、私の担当の子どもを引き取った里親さんが数人いました。その人たちからも3日おきくらいに子どもたちが毎日起こす「赤ちゃん返り」の様子を伝える電話の定期便がありました。「最近、どうも私宛の電話が減ったなあ」と思っていると、F子ちゃんの里親から「なんかすごい落ち着いてね。幸せなんです。しんどいことが何もなくて・・・」と嬉しそうな声の電話がかかってきたのが大体8カ月めくらいだったのを記憶しています。ちょっぴりシャイなF子ちゃん。どんな素敵な女の子に成長してくれるか楽しみです。