N子ちゃんは今、2才と1カ月。平成9年3月に「愛の手」に掲載され、去年の2月にDさん宅に引き取られました。Dさんのところには現在5才3カ月になるR君がいます。R君も1カ月の時に「愛の手」に掲載され、平成6年8月に引き取られました。ふたりはDさんのお宅で、兄妹になったのです。
2人目の委託について、協会はなかなか慎重です。まず、下の子に両親の手が取られてしまうことによる、上の子の不安な気持ちを、一番に考えてもらわなければなりません。上の子は、下の子の存在を受け入れ、両親の愛情を分け合うことを強いられます。その結果、再度始まるであろう赤ちゃん返りを、もう一度受け止めてやってほしいのです。そして、2人目を迎えるわけを、しっかり上の子に話して欲しいのです。「あなただけでは物足りないから」ではないこと、弟妹のできることの素晴らしさ、などなど。また、下の子を引き取る時には、上の子に「養子である」ことを打ち明けてもらいたい。「ふたり共が養子である」ということは、お互いが育っていく中で、かなりの支えになることでしょう。そして、ご夫妻の年齢。下の子が成人するまで、元気でいてもらわなくてはなりません。そんなこんなで、里親さんにすれば、「2人目を申し込んでも、なかなか委託されない」ということになりがちなのです。
Dさんも2人目の申込みとしては、N子ちゃんが4人目。3人の子どもについてはお断りという経過がありました。「R君がもう少し大きくなってから」というのが一番の理由でした。
N子ちゃんに初めて会う日、R君も一緒に乳児院に来ました。R君はよく分からないなりにも、妹ができることを自覚していました。実習は順調にすんで、引き取りに。でもR君はちょうどインフルエンザに罹ってしまい、2週間ほど幼稚園へ行かず、家にいました。お父さんお母さんとN子ちゃんの様子が気になって気になって仕方がないR君にとって、この2週間はちょうど良かったのです。その後もしばらく1カ月くらいは、N子ちゃんがDさんの膝の上にいると、「僕も赤ちゃんになった、バブー」と言って、抱っこをせがみました。その度にDさんはR君をしっかりと抱いて、「R君はね、お父さんとお母さんの大事な宝物なのよ」と話して聞かせたそうです。R君はN子ちゃんに焼きもちをやきながらも、徐々に兄らしいところを発揮し、一緒に仲良く玩具で遊ぶことも多くなりました。N子ちゃんが引き取られて2カ月後に家庭訪問に伺った時、N子ちゃんがあまりにかわいくなっていることに、心底驚きました。愛されるということは、こんなにも子どもを変えることなのだ、と改めて感動。R君はというと、N子ちゃんを抱っこしたり、玩具を出して遊ばせてやったりと、涙が出るほどの甲斐甲斐しさでした。N子ちゃんが引き取られて9カ月が過ぎた頃に、DさんからR君とN子ちゃんのかわいい写真つきで、こんなお手紙をいただきました。
『・・・とにかくN子はますます元気です。毎日Rに玩具を取られ泣かされながらも、仲良く一緒に遊んでいます。が、最近では、N子は玩具を奪われそうになると、Rに噛みついたりして反撃。その度にRが「うわあ~、母ちゃん、N子ちゃんが噛んだ~」と大泣き。ふたりの仲を取り持つ私の苦労はなかなかです。それでも、N子がいたずらをして私が叱ったりすると、横からRが「今度からこんなことはしたらあかんで。なっ!なっ!N子ちゃん、分かったか?」と頭をなでなで。N子はしっかりとうなずき、「うんうん」とかわいい仕草。ふたりのこんなやりとりを見たときの私の心は、本当に幸せいっぱい、夢いっぱいの気分です。今のふたりの無条件でのかわいさを、たくさんたくさん心の中に貯金して、これから将来、もしかすると荒れ狂うことになるかもしれない、ふたりの思春期を見守っていけるようにしたいね、と主人と話しています。(中略)N子は最近めっきり言葉が増えました。成長の早さを感じています。そして、何より私が嬉しく思っていることは、N子がよく笑うようになったことです。ニコニコ笑顔だけでなく、大声を出して大笑いしています。こちらに来てからしばらくは、遊んでいてもあまり笑わずさびしかったのですが・・・』
この手紙を書けるようになるまでには、様々な苦労がありました。Dさんはご主人の両親と同居をしていますが、R君を迎えた当初は、全くの善意とはいえ、その干渉に苦しみました。迎えた子どもと里親さんとの関係づくりがまず第一なのですが、子どもかわいさのあまり、おじいちゃんおばあちゃんがどうしても子育てに手出し口出しをしてしまわれます。特に、嫁の立場の里母さんは、気兼ねと本音の間で悶々。子どもが家族に加わったことで、今までの生活様式ではやっていけなくなり、家族の単位の見直しが必要となりました。悩んだ末に、Dさんははっきり、おじいちゃんおばあちゃんに「子育ては夫婦がする」ことを伝えました。初めはショックを受けていたおじいちゃんおばあちゃんも、徐々に息子夫婦の意向を理解してくれました。その下地があったから、N子ちゃんを迎えられたのです。また、R君だけに向けられていたおとな4人の濃~い関心が、N子ちゃんが加わったことでほどよく分散され、より一層、家族の中の見通しが良くなったそうです。
おとなだけで作ってきた家族関係が、子どもが入ることで一度突き崩される。そして子どもを迎えて再度、新しい家族を構築していかなければならない。このことの言うは易し、行うは難し。それを達成したDさんは、明るくて強くて、まぶしいくらいに『親』になりきっておられます。
(あたらしいふれあい 99年4月号より)