P君は今4才3カ月。Fさんのところに迎えられて8カ月が過ぎようとしています。実はP君は、1才4カ月の時と、2才1カ月の時と、そして今回Fさんのお宅に決まるきっかけとなった3才の時と、三度「愛の手」に掲載されました。とても可愛い男の子なのですが、知的な遅れがあるという判定を受けていて、そのことを引き受けようという里親が見つからなかったために、今回まで決まらずに年月が過ぎてしまっていたのです。3回目の掲載の時は、毎日新聞の記者さんが、すばらしい写真を撮ってくれました。その記者さんも、最高の傑作と言っていたくらいです。
Fさんご夫妻は協会を訪れたとき、すでに40代後半。協会の基準から言うと、3才の子どもの里親としては高齢です。
しかし、P君の知的な遅れを了解して、その上でぜひに・・・と言ってくださったことと、P君にとって三度目の正直を実らせたい、というこちら側の思いとで、Fさんの年齢には目をつぶることにしました。
施設実習は約2カ月弱で、前半は一日おきに通園し、後半は外泊を中心にしました。Fさんからいただいた手紙を、順々にご紹介したいと思います。
実習が始まった頃。「担当の先生の助言で、私たちを初めから『お父さん、お母さん』にした方がよいということになり、初日から「お母さん」と呼んでくれました。とっても心地よく、うれしかったです。」
引き取り2週間後。「過食、偏食が始まりました。ヨーグルトを一度に5~6個、ラーメンを2袋、チョコレートの小袋を30個などなど。個包装のふりかけも20個をご飯にかけました。面会や外泊の頃から、おんぶ、抱っこでしたが、うちに来てからは特に抱っこの要求はすごいです。そして、お父さんのやることがしたくてたまらないらしく、朝の出勤時には、『Pもお仕事に行く』と言うので、夫が5分間ほどおんぶをして家の周りを散歩です。」
引き取り3週間後。「食事は随分と落ち着き、『お父さんと食べる』と言って、私たちと一緒に食べるようになりました。いくら過食してもいい、散らかしてもいい、私たちを叩いても良いと思っていましたが、抱っこ攻撃とウルトラマン対怪獣の対決ごっこには、本当にこちらの体力が消耗します。これは毎日3時間は要求します。すべての要求を文句無しに受け止めてやることの大変さを実感しています。予想以上のしんどさです。一人になった時、ふっと涙ぐんでしまうことがあります。でも、これが私たち夫婦の選んだ道なのだと気持ちを持ち直して、一日一日を過ごしています。」
引き取り約1カ月後。「前回の手紙は、一番しんどいときに書きましたが、アドバイス通り、要求に応えてやるようにしています。そうすると、だんだん自分一人で表へ出て遊ぶこともするようになりました。赤ちゃん返りは以前よりひどくなっているように思います。1週間くらい前から『赤ちゃんごっこ』といって、Pのお気に入りのムートン座布団に寝転がり、赤ちゃんに声をかけるように、私が話しかけたり歌を歌ってやったりしています。」
引き取り2カ月後。「この頃は、夫が相手になっていれば、私が一人で入浴できるようにもなりました。ウンチもお父さんと行けるようになりました。」この手紙には、部屋中をハサミで切った紙だらけにして遊んでいるP君の写真が添えられていました。
引き取り3カ月後。「新年になって、着替えやトイレ、はみがきを自分でやり始めました。私たちが『ちょっと待って』と言おうものなら、火がついたように大泣きしていましたが、この頃は泣き方が弱まり、早く泣き止むようになりました。食事は不規則ですが、おかずもだんだんと食べかけています。」
引き取り4カ月後。「この4ヶ月間の日々は、Pにとっても私たちにとっても、大きな意味のある日々でした。抱っこは私が『待て~、抱っこさせろ~』と言って、Pを追いかけるという遊びに変わり、抱っこをさせなくなりました。こんな形で抱っこ離れをするとは予想しませんでした。ところで、児童相談所の発達検査に3人で行って来ました。結果は『年齢相応で心配ない』ということでした。今までの検査結果とは格段の進歩だそうで、Pはとても落ち着いて対応していたそうです。夫と私はもう嬉しくて嬉しくて『今晩は乾杯しよう!』と喜び合いました。」
引き取り5カ月後。「Pの遊びもだんだんと変わっていきました。初めの頃は、とにかく風船を飛ばすことばかり。それからはひたすら紙切り。これはものすごい量の紙を切りました。夫が職場から古封筒を山のように持って帰ってくれ、その次は広告紙をこれまた山のように・・・。Pは毎日毎日切っていました。いつまで続くんだろうと思っていましたが、今ではたまに思い出したように切るだけです。今は自分から進んで塗り絵やお絵かきをやっています。顔を描いて目や鼻、口も描けます。折り紙も簡単な物なら上手に折るようになりました。アンパンマンやポケモンのシールを集めてノートに貼り、大切に何度も見て、今ではほとんどを覚えました。(中略)私たちはPがいとおしくていとおしくてなりません。どんなに抱きしめても足りないくらいです」
引き取り半年後。「幼稚園には元気よく行っていますが、園から帰ってきてしばらくは、むちゃくちゃわがままというか無茶を言います。できるだけ応えてやっています。やはり、幼稚園では精一杯頑張っているのだと思います。」
Fさんはとても筆まめな方なので、こんなふうに、親子むすびの初めの頃のプロセスが手に取るように分かりますね。これからもしんどいことが多々あるのでしょうが、まずは一山を越えたというところでしょうか。
(あたらしいふれあい 99年6月号より)